
SPECIAL FEATURE特別取材
【スペシャルレポート】
中垣繁幸氏×アンドレ・チャン氏
カクテルペアリングの最前線はこんな感じ!
[vol.02] -
ペアリングディナーは中盤戦へ。
#Special Feature
四品目。
さっと焼かれて軽く火の通った和牛舌のお肉の上にバターナッツ南瓜のピクルスが乗ってやってきます。
そこに、スープ状になったフォアグラのヴルーテが注がれて完成。
さっと焼かれた牛舌とフォアグラ。酸味を纏わせながらも素材の甘さが感じられるバターナッツ南瓜との黄金比の味の組み合わせ。
肉とフォアグラの味わいと油脂に負けない飲み物となると、一般的にはタンニンのしっかりした赤ワインなどですが、「少し高めのアルコールのチカラで油脂を流しつつ、味わいもマッチさせる」という、カクテルにしか出来ないペアリングの提案を……。
「ステア・ショートカクテル」らしい一杯です。
ベースはマール・ド・シャンパーニュ(ランソン)。
干し葡萄のような力強さの中、どこかミルキーなニュアンスを感じるこのマールにドライポルチーニを漬け込んで、旨味と香りを抽出したものをカクテルの骨格に。
ぶどう果汁を濃縮させて作られた「グレープ・マスト・リダクション(葡萄の蜜)」の芳醇な甘さと、ホワイトバルサミコの優しいながらもしっかりと主張してくる酸を使って、葡萄の素材同士でカクテルの構造を形成します。
しかし、このままのアルコール度数では食中酒として楽しめる心地よい度数を超えてしまうと考え、前日から水出ししておいた柔らかな味わいのアッサムティをギリギリの量だけ加えてステア。
トロリとしたアルコール感の残る食中ショートカクテルとしてペアリングしました。
4杯目のカクテル名は「Cep D’or/黄金の葡萄の木」。
第4のフィロソフィは「Grapes reintegration/葡萄の再統合」。
葡萄の成分でカクテルを成立させ、長く熟成した上質なシェリーのような美味しさと、フォアグラなど油脂のしっかりした料理に合う、マディラやマルサラを使ったソースのような蠱惑的な後味を併せ持ったショートカクテルです。
5品目「トウモロコシのラビオリ”クーラン” 野菜のフリカッセと トリュフの泡」。
“クーラン”とはフォークを入れると中から流れ出てくるような料理の呼び名のひとつ。
トウモロコシの流れ出るラビオリ、野菜のフリカッセ(クリーム煮)、トリュフの泡……。
この組み合わせから「野菜の甘みの魅力」を感じていただけるカクテルをテーマにペアリングを考えました。
5つ目のフィロソフィは「Chaud-Froid/温か冷たい」。
カクテル名は「TsunDere-Garl/ツンデレ・ガール(笑)」。
海外でのジャパーニーズ・ポップ・カルチャーの浸透度を見たくて、ネーミングで少し遊んでみました。
岐阜産の「紫芋」を蒸して、ミルクと合わせた冷たいカクテル。
中にはカカオニブがつぶつぶで入っています。
その上に、これも岐阜産の「宿難かぼちゃ」を蒸して、ソイミルクと合わせた温かいカクテル。
中には黒胡麻がつぶつぶで入っています。
紫芋の甘さと、宿難かぼちゃの甘さがトウモロコシの甘さと響き合い、上が温かく、下が冷たい、不思議な温度感が味覚をリフレッシュさせて、カカオニブと黒胡麻が合わさった香りが、不思議とトリュフと共鳴する。
「酸」も「タンニン」も「アルコール」も使わずに料理とマッチングさせるという狙い通りのペアリング効果が出せたノン・アルコールカクテルです。
前の料理でちょっと強めのカクテルをお召し上がりいただいたのでここはあえてのノンアルコール。
8杯という長丁場の中、皆様に楽しくお付き合いいただく為のインターバルの一杯。
6品目「野生の茸とリゾーネ 豊かなチキンスープを注入した温かい卵黄と」。
「リゾット」ではなく「リゾーネ」。
お米ではなく、お米の形をしたパスタで作ったリゾットと香ばしいジャガイモのシートと、卵黄とリッチなチキンスープ。
最後にシェフ自ら削りかけてくれるのは特製のチーズ。
美味くないわけがない嬉しい組み合わせの一皿。
シェフ曰くこの料理のヒントは「日本のTKG(卵かけご飯)」とのこと。
ならば、日本のお米のお酒でバッチリ合わせてみたいところ。
ここは、日本酒の「熟成古酒」のパイオニア。
岐阜の誇る酒蔵「達磨正宗」のフラッグシップ。
当主「滋里さん」の名を冠した「Shigeri」の圧倒的な旨味を頼りにベースで起用。
シャトーディケムと同じ樽を揺りかごにしたこの特別な熟成古酒に合わせる為に特別にブレンドした自家製ヴェルモットをステアします。
6杯目のカクテル名は「Japanese-Adonis/日本の美少年」。
第6のフィロソフィは「Japanese deformation/日本流アレンジ」。
シェリーとヴェルモットのクラシックカクテル「アドニス」を日本の熟成古酒と、この料理に合わせて、ボタニカルの配合をやり直して仕込んだ自家製ヴェルモットで、料理のギリギリ位置までカクテルを近づけました。
このカクテルと料理のマッチングのアイデアは、打ち合わせの時点で「レストラン・アンドレ」シェフ・ソムリエの長谷川氏から「ドンピシャの組み合わせだと思います!」と太鼓判を頂戴いたしました。
7品目。まずは木の枝に挟まれたレタスのシートのようなものが運ばれてきます。
次にお皿。
シェフ自らが、先ほどのレタスのパリパリを砕いて仕上げてくれます。
7皿目「キヌアを纏ったショートリブ、牡蠣のエマルション、野菜のルラード」。
パリパリカリカリの食感のキヌアと、しっとり焼かれたショートリブに牡蠣のエキスの旨味と 野菜の旨味を凝縮させて、あえてルラードと名付けられたパリパリの野菜……。
この料理に合わせるなら、いつもであれば、赤ワインが鉄板。
ショートリブの油脂を流せるタンニンと牡蠣のミネラルと野菜のフレッシュ感さを引き立たてられる酸がそこそこあって……、ちょっとジューシィな印象の赤。
ローヌあたりの、あの一本か……と。
シェフの心の故郷「南フランス」のワインを連想させる料理がさらりと出てくること自体にシェフの凄みを感じます。
でも、ここではカクテル。
カクテルなら料理をもっと面白いところにもお連れてすることができるんですよ、シェフ。
このカクテルのベースはウオツカ。
ただし、2日前にバターでじっくり焼いた手作り無添加ベーコンを漬け込んで、1日前にフリーザーに移してフィルターで固まった脂分を完全に取り除いて、ベーコンの風味と旨味だけを抽出した自家製ベーコン・フレーヴァード・ウオツカ。
それに、シノワで漉して絞ったばかりの新鮮なトマトのジュース。
さらに立体感のある旨味と香りを組み上げる為に、スモーキーなメスカルにチポトレ(オアハカの燻製唐辛子)を漬け込んだものを少量。
上からはじっくり焼いた牛肉から抽出した出汁(フォン・ド・ヴォー)とミルクを特別なホイッパーで泡立てたフォーム・ド・ミルクとロースト・コリアンダーと生のホーリー・バジルをぱらり。
ペアリングドリンクの枠を超えて「料理の第二のソース」「料理の延長線のグラス」と 言える位置にまで寄せきったカクテルにしかできないドリンクペアリングの世界です。
7つ目のフィロソフィは「Beyond the Cocktail/カクテルを超えて」。
カクテル名は「Foodies-Mary//喰いしん坊の(ブラッディ)メアリー」。