
SPECIAL FEATURE特別取材
アメリカンウイスキー「ミクターズ」が
世界のバーテンダーに支持されるワケ。
#Special Feature
文:Drink Planet編集部
2023年、ドリンクス・インターナショナルによる「世界で最も称賛されるウイスキー」第1位に選出された「ミクターズ」。
世界中のバーテンダーからの注目も高く、近年、存在感を増し続けているプレミアム・アメリカンウイスキーです。
そんな「ミクターズ」の世界観を伝えたいと、マスターディスティラーのダニエル(ダン)・マッキーさんが初来日!「フォーシーズンズホテル東京大手町」で行われたイベントで、特別インタビューを行いました。
現在、「ミクターズ」は「ミクターズ US★1 バーボンウイスキー」「ミクターズ US★1 ライウイスキー」「ミクターズ US★1 サワーマッシュ」「ミクターズ US★1 アメリカンウイスキー」の4製品が定番としてラインナップされている。そのほか、「バーボンウイスキー10年」や「トーステッドバレルフィニッシュ バーボンウイスキー」など、ユニークな限定品も。
1753年にペンシルバニア州で創業した、アメリカ最古の蒸溜所シェンクス社にルーツをもつ「ミクターズ」。
独立戦争の際、ジョージ・ワシントンが部下にこのウイスキーを与えて士気を鼓舞した、なんて逸話があるほど、歴史ある蒸溜所なんです。
その後、ボンバーガー蒸溜所に名前を変え、何人もオーナーが変わり、「ミクターズ」という名前が与えられたのは1950年代に入ってから。
1990年代、新たなオーナーとなったジョセフ・J・マグリオッコがケンタッキー州に拠点を移しました。
現在は同地のルイビルにシャイヴリー蒸溜所、バーを併設するフォートネルソン蒸溜所、そして60万m2のスプリングフィールド農場という3つの拠点を構え、ウイスキー造りを行っています。
ダンさん自身はウイスキー造りという夢を追いかけて故郷のインディアナからケンタッキー州に移住を果たし、ジム・ビーム蒸溜所でキャリアをスタート。
その後、ブッカー・ノウ蒸溜所で7年間、蒸溜責任者を務めたのち、2014年にミクターズ蒸溜所へ転籍。2019年に現職に就任しました。
穀物に関して専門的な知識を持ち、高品質な穀物を栽培すべく、スプリングフィールド農場では現地の農家たちと協働しています。
マスターディスティラーのダニエル(ダン)・マッキーさん(左)と、セールスとマーケティングの責任者も務めるマシュー(マット)・マグリオッコ副社長(右)。
“Cost be Dammed(コスト度外視)!“の姿勢が表れる6つの独自手法。
「世界最高のアメリカンウイスキーを造る」という理念のもと、「採算よりもクオリティ重視」というものづくりの姿勢を貫いている「ミクターズ」。
マスターディスティラーのダン・マッキーさんいわく、「家族経営の小さな蒸溜所だからこそ許される贅沢」。けれども、この姿勢こそが「ミクターズ」らしさと言えるかもしれません。
実際、「ミクターズ」では6つの独自手法を取り入れてウイスキー造りを行っており、それが味わいに大きく作用していると言います。
「1つめは樽材へのこだわりです。
初めに樽の材料となるアメリカンホワイトオークを、18〜60ヶ月かけて天日で自然乾燥させます。
これほど時間をかける蒸溜所は他にはないと思いますよ!でも、この工程により、木材のタンニンが分解されるので、特に時間をかけたいんです。タンニンは苦味や渋みの原因になりますからね。
2つめは、樽のトースト&チャーリングです。樽をチャーするのは普通ですが、うちではチャーリングの前に内側をトーストするんです。
樽の中にオークチップを入れて燃やし、内部にしっかり熱を回すと、木材に含まれる、フレーバーをもたらす成分をしっかり引き出すことができます。
3つめは、51.5%ABV(103proof)という低い度数になるまで加水して樽詰めすること。
業界水準は62.5%だから、他に比べるとかなり低い度数ですね。度数が低いということはその分、余計な熟成樽が必要になるのでコストは高くつくんです。これを許してくれるのはオーナーの懐の広さですね。ありがとう、マット(笑)。
けれどもここで加水しておくことで、非常に滑らかでやわらかい口当たりになります。
ケンタッキーのウイスキー造りの歴史をひも解いてみると、実は過去にはこの手法が用いられていたようです。
けれども効率重視の大量生産が主流になるなかで、徐々に廃れていきました。私たちはあえてそれを貫き通している、というわけです」(ダン)
「VIRTÙ」のヘッドバーテンダー、キース・モッツィさんが監修したウェルカムカクテルは、ミクターズを使った自家製梅酒と檜ビターの「SIGNATURE HIGHBALL」(左)と「SMOKED UME FASHIONED」(右)。
ケンタッキーの風土をボトルに閉じ込めて。
「4つめはヒートサイクリングを取り入れて、冬の間にも熟成庫内に温度差をつくること。
寒暖差をつくることでウイスキーと樽材の相互作用が促され、て樽とスピリッツがよく馴染むのです。
5つ目は、製品ごとに異なる冷却濾過を行うこと。引き出したい個性はウイスキーごとに異なりますから、何℃にするか、どのくらい時間をかけるか、フィルターはどうするか、きめ細かに設定を変えるんです。
最後はスモールバッチへのこだわり。私たちはシングルバレルもしくはスモールバッチで管理しています。
うちが定めている基準は1バッチ24樽まで。これはかなり数が少ないけれど、こうすることでウイスキーの均質性が保たれるんです」(ダン)
ダンさんによれば、このような手法のいくつかを取り入れている造り手はいるけれど、すべてを採用しているのは「ミクターズ」だけだとか。
さらに、ケンタッキーならではの風土、つまりテロワールも大切にしています。
地質学的にはケンタッキー州にはカルスト地形が多く、地下水には石灰分が溶けこんでいます。カルシウムを含むPH値の高いこの水は、ウイスキーの仕込み水として最適だそう。
「四季がはっきりしているケンタッキーの気候もウイスキー造りに適していると思います。
四季がはっきりしているということは気温差があるということ。暑い日はウイスキーの温度も上がり、寒い時期は温度が低くなります。
このような温度変化によって樽内の気圧が変わり、スピリッツが木目に染み込んだり、反対に木目から滲み出てきたりするんです。
こうして、樽からキャラメルやバニラのような香りやスモーキーな余韻となる成分が引き出されるんです」(ダン)
手間ひまをかけて仕込み、ケンタッキーの風土がじっくり育む「ミクターズ」の味わいは、「ケンタッキーそのもの」とダンさん。
「ミクターズをグラスに注げば、そこにはケンタッキーの気候風土、自然、個性そのものが表現されているはず。
ぜひそれを感じとっていただきたいと思います」
ペアリングディナーから。「ミクターズ US★1 バーボンウイスキー」と合わせた前菜は、「毛蟹のタルタル宮崎マンゴーのマリネとクーリ ブラータチーズとルッコラセルバチカメープルドレッシング」。
ミクターズが考えるサステナビリティ。
「ミクターズ」でセールスとマーケティングの責任者も務める マット(マシュー)・マグリオッコ副社長によれば、「ミクターズ」ではウイスキー造りにおける持続可能性の実現にも真剣に取り組んでいます。
サステナビリティといえば、昨今のウイスキー業界において一大トレンドになっていますが、ミクターズでは些細な取り組みであっても日常的に行い、それを積み重ねることがよりよい未来に貢献すると信じています。
「蒸溜所内ではリユース&リサイクルプログラムを推進しています。
熟成樽からコルク、ガラスや段ボールといった資材、製造プロセスで使う水やエネルギーに至るまで、再利用できるものはなんでも有効活用しています。
大規模なリノベを行ったフォートネルソン蒸溜所では、木材、レンガ、石……さまざまな素材を再利用しています。
スプリングフィールド農場で栽培するのは遺伝子組み換えをしていない穀物のみ。農場周辺の環境を保全するための活動も行なっています。
また、サプライチェーンと協働してカーボンフットプリントにも取り組んでいます。
目指すのは、材料調達から販売にいたる製品のライフサイクル全体におけるCO2排出量の低減です。
一朝一夕で結果が出るわけではありませんが、こうした取り組みを続けることで世界最高のアメリカンウイスキーをこの先も長く造り続けることができるんだと考えています」(マット)
サプライズで貴重なボトルが登場!2023年に発売された「ミクターズ セレブレーション サワーマッシュ ウイスキー」は、12年〜30年熟成の、バーボンウイスキー3樽とライウイスキー4樽をブレンドしたもので、フルーツやハチミツ、やわらかなスパイスといったフレーバーが複雑なレイヤーを織りなす。世界で328本のみリリースされたという超レアボトルは、ダンさんが手荷物で持ってきてくれたとか。
このようなクオリティファーストなものづくりへの姿勢が高く評価され、2023年にはアメリカのブランドとして初めて、ドリンクス・インターナショナルによる「The Most Admired Whiskey in the world」の第1位に選出。
さらに、今年も「Bartender’s Choice」第1位、「Top Trending Brands」では6年連続第1位に輝くなど、高い評価を得ています。
「『The Most Admired Whiskey in the world』は過去、すばらしいブランドが選出されているアワードですから、そこに肩を並べることができたのは感無量でした。
100人以上いるスタッフ全員を招いたセレブレーションディナーを開いてもらって、みんなで大いにお祝いしました。
というのも、最高のウイスキー造りは1人の力でできるものではないからです。蒸溜や熟成といった製造、管理や成分分析担当、営業、販売……チームみんなの力を結集して実現するものなんです」(ダン)
ダンさんは初めての日本滞在ということもあり、短期の滞在にも関わらず福岡・大阪・東京を周り、精力的にブランドセミナーを開催しました。
セミナーをきっかけに200人を超える日本のバーテンダーたちと出会うことができたことが、旅のハイライトだったと語ります。
「日本のバーテンダーたちはみなさん、素晴らしい仕事をされますし、以前からそのコミュニティに深い敬意を抱いていましたが、ホスピタリティあふれる素晴らしい歓待を受け、私にとっても忘れ難い旅となりました。
今回のジャパンツアーで、私たちとバーテンダーのみなさんの間にはユーザーの思い出に残る経験をもたらすという点で共通項があるとわかり、ますますシンパシーを感じるようになりました」(ダン)
一方のマットさんも、2014年1月に初めて日本を訪れて以来、日本のバーシーンに大きな感銘を受けたと言います。
「昨日もダンと、『どうして日本のハイボールはこんなにおいしいんだろうか』という会話をしていたんですが、ステアだったり注ぎ方だったり、バーテンダーのみなさんがさらなるおいしさを目指して細部に至るまで研究を重ねていることが1杯のハイボールにも表れていると感じます。
テクニック、細部へのこだわり、ホスピタリティ……こうしたプロフェッショナリズムを尊敬すると同時に、私たちのやりかたに相通じる部分があるように思い、シンパシーも感じています。
それが当たり前のように根づいている日本のバーシーンなら、私たちのウイスキーを認めてくれるはず。だから日本のマーケットやバーシーンに大いに期待しているんです」(マット)
「日本の市場で『ミクターズ』を販売でき、みなさんに私たちの製品を楽しんでもらえていることを光栄に思っていますし、心から感謝しています。
今回の旅でどこに行っても素晴らしいおもてなしを受けたこと、私たちは忘れません。
次回はぜひ、日本のバーテンダーやユーザーのみなさんにルイビルを訪ねていただき、私たちのおもてなしをお返しできたらと考えています」(ダン)
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